水素とポロシティー

 鋳物材にある程度のポアが含まれることは、以前からよく知られている。最近、X線CTによる3Dイメージングにより、充分に展伸を経た材料でも、図1に示すように最大10μm以上に達する球状のポアが多数含まれることがわかってきた(論文1)。アルミニウム合金に大量のポアが存在することは、表面・断面観察に慣れた我々材料工学の研究者・技術者にとって、非常に新鮮な発見であり同時に驚きでもあった。この知見は、これまでミクロポアの存在を全く意識せず決定されていた様々な加工・熱処理条件などに疑問を投げかけるという意味で、産業的意義も大きいと思われる。

図1 投影型CTによる様々なアルミニウム合金の3D像。純アルミニウム系以外の全ての材料に,高密度なポアが内在することがわかる

図2 Al-Mg合金(HH,MH,LHは,それぞれ水素濃度の高中低に対応)の各トラップサイトの占有率(上)および各トラップサイトへの水素の配分率

 アルミニウムは、加工や熱処理を施した後でさえ、固溶限をはるかに超える水素を含有する。ポアは、分散粒子上に不均質核生成により発生することが証明されており(論文2)、核生成サイトが乏しい純アルミニウムでは、図1にも示すように、水素濃度が同じでもポアはほとんどない(論文2)。図2に、トラップサイトと格子間にある水素の熱平衡を仮定して求めたトラップサイト占有率、および各トラップサイトへの水素の分配を示す(論文2)。ポアは、固体アルミニウムに通常含まれる過飽和な水素が主として転位や格子間位置にトラップされると同時に、分子状水素として材料内に排出されたものである。ポアのサイズは、水素内圧とポアの表面張力の平衡に基づき定まる(論文2)。また、図3の左側に示すように高温暴露中には粗大化するが、この機構はOstwald成長である事が証明されている(論文2)。

図3 Al-Mg合金の均質化,熱間・冷間圧延および焼鈍中のポアの変化

 

図4 動径基底関数法を用いた局所変位場の解析方法(上)およびAl-Mg合金への適用結果(表)。試料中に見られた381個のポアの内,60%圧縮時まで残留したポアは69個。一旦消滅したものの,再加熱後に同じ位置に再発生したものが72個ある

 
 ポアの消滅挙動は、図4に示す動径基底関数を用いた分散粒子による局所変位場の計測により検討されている(論文3)。それによれば、見掛け上消滅したように見えても再加熱により再発生するなど、複雑な挙動を呈する。図3の右側でも、圧延後に残留するポアが可視化されている(論文3)。ポアが消滅する力学的な条件は、分散粒子のトラッキングによる内部歪の4Dマッピングにより整理されている(論文3,5)。

図5 Al-Mg合金の一軸圧縮中の内部歪み分布の計測結果

 図5に示すように、単純な一軸負荷であっても材料内部の局所歪は非常に不均一になっている。そして、図6に示すように、有効ひずみが局所的に概ね0.4〜0.5の所で各ポアは消滅し、ポアの消滅は従来から用いられている静水圧応力という尺度には依らない。

図6 圧縮や表面冷間加工によるポアの消滅と4Dイメージングにより計測した局所有効ひずみ分布

 この他、ポアがアルミニウム合金ダイカストの強度・延性に及ぼす影響(論文6)や疲労破壊(論文8)に及ぼす影響も統計的に解析している。また、ポアが外部負荷下で早期に成長・合体し、延性破壊を誘発することも明らかにされている(論文9)。

関連解説論文

  1. 戸田裕之, 小林俊郎, 大垣智巳,高分解能X線CTによる可視化技術の進歩:材料内部の局所力学量のin-situ測定への応用,材料試験技術,Vol.48,No.1,2004,5-10
  2. 戸田裕之,小林正和,鈴木芳生,竹内晃久,上杉健太朗,3D・4Dマテリアルサイエンス:その現状と展望,非破壊検査,Vol.58,No.10,2009,433-438

投稿論文

  1. 増田翔太郎,戸田裕之,青山俊三,折井晋,植田将志,小林正和,熱処理したアルミニウム合金ダイカストで新たに見つかった鋳肌欠陥とその疲労特性への影響,鋳造工学,Vol.81,No.10,2009,475-481(日本鋳造工学会論文賞受賞)
  2. H. Toda, T. Hidaka, M. Kobayashi, K. Uesugi, A. Takeuchi, K. Horikawa, Growth behavior of hydrogen micropores in aluminum alloys during high-temperature exposure, Acta Materialia, Vol.57, 2009, 2277-2290
  3. H. Toda, K. Minami, K. Koyama, K. Ichitani, M. Kobayashi, K. Uesugi, Y. Suzuki, Healing behavior of preexisting hydrogen micropores, in aluminum alloys during plastic deformation, Acta Materialia, Vol.57, 2009, 4391-4403
  4. 小林正和, 戸田裕之, 南恵介, 森豊和, 上杉健太朗, 竹内晃久, 鈴木芳生, 軽金属,Vol.59,No.1,2009,30-34.
  5. H. Toda, T. Yamaguchi, M. Nakawaza, Y. Aoki, K. Uesugi, Y. Suzuki and M. Kobayashi, Four-dimensional annihilation behaviors of micro pores during surface cold working, Materials Transactions, Vol.51, No.07, 2010, 1288-1295
  6. 戸田裕之,小林正和,伊藤真也,中澤満,青木義満,堀川宏,鈴木聡,ミクロポアがアルミニウム合金ダイカストの強度・延性に及ぼす影響の統計的解析,鋳造工学,Vol.82,No.7,2010,427-432
  7. 大語英之,戸田裕之,上杉健太朗,鈴木芳生,小林正和,軽金属,Vol.60,No.8,2010,409-410.
  8. H. Toda, S. Masuda, R. Batres, M Kobayashi, S. Aoyama, M. Onodera, R. Furusawa, K. Uesugi, A. Takeuchi, Y. Suzuki, Statistical assessment of fatigue crack initiation from sub-surface hydrogen micropores in high-quality die-cast aluminum, Acta Materialia, Vol. 59, No.12, 4990-4998, 2011
  9. H. Toda, H. Oogo, K. Horikawa, K. Uesugi, Y. Suzuki, Y. Aoki, M. Nakazawa and M. Kobayashi, The true origin of fractures in structural metals, Acta Materialia, to be submitted.