高温溶体化処理

図1 様々な溶体化処理温度での強度および硬さの変化

 共晶融解が生じるような高温での熱処理では、共晶融解によるポアの発生・成長や金属間化合物相の粗大化など負の効果と、材質の均質化や時効硬化能の向上による正の効果の重畳によりマクロな特性が規定されると考えている(論文1,2,3)。我々は、K吸収端差分イメージングなどの3D/4Dイメージング手法を活用し、これら正負の効果を定量的かつ3D/4Dで明らかにし、極限的な高温溶体化処理を高い信頼性の下に達成する事を目的としている。

図2 いくつかの溶体化処理温度-時間条件でα相中のCu濃度分布を表すヒストグラム

 溶体化時間をパラメータとして、Al-6Si-4Cuの引っ張り強さ/硬さと溶体化温度の関係を図1に示す(論文2,3)。807 K-7.2 ksで溶体化処理した試料が最も高い強度を示しており、JIS-T6処理条件と比較して12%以上の引張強度の改善と溶体化時間の1/5程度の短縮が達成されている。マクロな硬さはこれと概ね整合するものの、α相の硬さはこれと大きく異なり、特に807Kではその差が大きくなっている。これは、807Kでは共晶相の強度低下が激しいことを示唆している。図2に示すように、三元共晶温度以上の溶体化処理で時効硬化能が向上し、807Kでは1.8ks程度で銅濃度のばらつきが収束し、その後Cu濃度値も徐々に増加する(論文3)。これは、図3に示すように、高温下で最終凝固部の高Cu濃度領域が急速に消滅しているためである(論文3)。ただし、共晶融解の発生により、母相の均質性が失われる負の効果も同時に進行している点は興味深い。

図3 807KにおけるCu濃度10%以上の領域の変化。矢印は,濃度30%以上の領域を指し示す

 

 

図4 807Kにおけるポア(青)とCuを含む相(灰色)の分布

 一方、図4に示すように、溶体化処理時に発生したポアが局所融解部に隣接して存在し、高温下で成長する事がわかる(論文3)。正の効果である時効硬化能の向上が、ポアや共晶融解の増加の効果に卓越する条件を越え、より長時間、ないしより高温での溶体化処理を施すと、次第に負の効果が支配的になり、特に脆性な共晶融解部の優先的な破壊がマクロ特性の低下を規定する。図5は、破壊と共晶融解部の関係を示している(論文3)。

図5 807-10.8ks材の引張破断後の破断面とCu濃度10%以上の領域の対応

関連解説論文

  1. 戸田裕之,小林正和,鈴木芳生,竹内晃久,上杉健太朗, 3D・4Dマテリアルサイエンス:その現状と展望,非破壊検査,Vol.58,No.10,2009,433-438
  2. 戸田裕之,佐藤眞直,奥田浩司,小林正和,放射光を用いた材料の観察と解析,軽金属,Vol.61, No.1, 2011

投稿論文

  1. 入之内豊,戸田裕之,酒井崇之,小林俊郎,王磊,AC4CHアルミニウム合金鋳物の高温溶体化処理による機械的性質の改善,軽金属,Vol.55,No.4,2005,159-163
  2. T. Nishimura, H. Toda, M. Kobayashi, T. Kobayashi, K. Uesugi and Y. Suzuki, Change in microstructure of Al-Si-Cu casting alloys during high-temperature solution treatment, International Jounal of Cast Metals Research, Vol.21, No.1-4, 2008, 114-118
  3. H. Toda, T. Nishimura, K. Uesugi, Y. Suzuki, M. Kobayash, Influence of high-temperature solution treatments on mechanical properties of an Al-Si-Cu aluminum alloy, Acta Materialia, Vol.58, 2010, 2014-2025