数十メートルもある大きな輸送機器・構造物は数千・数万の構成部品からなり、その一つ一つの強度特性は使用される材料のミクロ組織に強く依存します。また、それだけではなく、使用される環境によって力学的応答が大きく異なります。すなわち、機器・構造物の安全はミクロな世界の材料組織や力学特性で決定されると言っても過言ではありません。
 一般的にはこれまで応力-ひずみ応答(マクロ特性)やその壊れ方からその材料が持つ延性や強度を測定し、機器・構造物に適用してきました。しかし、さらなる技術革新のためには要求特性に対して材料が持つ能力を最大限に発揮する必要があります。そのためには、ナノレベル(時には原子レベル)から起こる現象(変形・破壊)を捉えて、それらを制御しミクロ組織を最適化することが重要です。
 構造材料評価研究室では、ナノレベル~マクロレベルに至って材料のふるまいを理解し、革新的材料開発や強度設計の最適化に挑戦しています。

進行中の主な研究プロジェクト


  • 科学研究費補助金 基盤研究(B)「相変態×水素誘起き裂発生・進展現象解明:高分解能X線CTと局所XRDの援用」2023年度~2025年度 代表者 髙桑脩
  • 科学研究費補助金 若手研究「局所水素濃化によるAl-Zn-Mg合金の水素脆化挙動のマルチモーダル3Dイメージベース解析」2023年度~2025年度 代表者 藤原比呂
  • 科学研究費補助金 基盤研究(A)「超高分解能X線顕微鏡が拓く3D/4Dマルチスケール・マルチモーダル材料科学」2021年度~2023年度 代表者 戸田裕之
  • JST科学技術振興機構CREST ナノ力学「ナノ~マクロを繋ぐトモグラフィー:界面の半自発的剥離」2019年度~2024年度 代表者 戸田裕之


     構造材料が使用される環境は年々厳しさを増しています。単純な力学的負荷のみではなく、腐食、酸化を伴う場合が多くあります。また、力学的負荷についても、繰り返し負荷は人間と同じように構造材料を疲労させます。こういった幾つもの因子が重なり合って発生する破壊を環境助長型破壊と呼びます。例えば、原子力発電所や化学プラントなどで問題となる応力腐食割れや水素脆化もこの中に含まれます。特に、水素は一番小さな元素であり、材料製造中や使用中に容易に構造材料内に侵入し、変形特性や破壊モードを変えてしまいます。安全を担保するためにはそのメカニズムをきちんと理解する必要があります。
     構造材料評価研究室では種々の構造材料(航空機用アルミニウム合金、ロケット用ニッケル基超合金、鉄鋼材料など)における水素脆化や応力腐食割れに関して研究を進めています。得られた成果を、環境助長型破壊に強いミクロ組織を持つ革新的構造材料の開発や、破壊が生じない範囲での強度設計の最適化につなげています。これまで、下記に詳細を示すX線CTを活用して材料内部の情報を取得することで本来分からなかった真の破壊メカニズムを明らかにしてきました。

    関連テーマ:
  • 従来の理解とは異なる真の破壊メカニズム解明に基づくアルミニウムの飛躍的高強度化
  • 水素の局所分布状態の解明とその制御による航空機用アルミニウムの水素脆化破壊克服
  • 析出強化型Ni基超合金Alloy718の水素による特異なき裂進展挙動の解明と水素環境への適用指針の構築
  • 水素社会を支える鉄鋼材料の水素誘起き裂進展メカニズムの包括的理解
  • オーステナイト鋼のひずみ誘起マルテンサイト変態×水素脆化のその場3D/4Dイメージング
  • 原子スケール計算力学による水素固溶度と固溶強化への合金元素の影響解明

  •  CTと聞いて何を思い浮かべるでしょうか?多くの人は医療ドラマに出てくる人体の検査をする機器を思い浮かべるのではないでしょうか。CTはComputed Tomographyの略であり、X線を透過させることで得られる断層像から、医療分野では腫瘍などの人体内部の異常を発見できます。構造材料評価研究室ではこのX線CTを人体ではなく構造材料の分析に使用しています。もちろん金属を透過させ、高い分解能で断層像を得るためには医療用より桁違い(100億倍)の明るさを持つX線を用いています。実験は兵庫県にある日本が誇る世界最強の放射光施設Spring-8で実施しています。この先進技術と高度な解析法を組み合わせることで、変形中の材料内部のひずみ分布など本来では見えなかったものを可視化することができます。また、時を遡って破壊する場所の変形挙動を見ることが可能です。

    関連テーマ:
  • チタン合金の特異な疲労き裂伝播挙動の解明とミクロ構造の最適化
  • 変形・破壊挙動の3D/4D解析技術の構築とその自動車用高強度鋼への応用
  • PAGE TOP