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金属疲労

金属疲労機構の解明

金属疲労の被害を、疲労き裂発生と伝ぱに分けて解明している。その手法としては、その場観察を採用している。

  1. 金属の表面形状の型を溶けたプラスチックでとり、それをある繰返し数ごとに保存する。そして最終破壊から遡ることによって、疲労損傷を顕微鏡観察する方法(プラスチックレプリカ法)。
  2. 特殊環境下では、そのチャンバーに観察窓をつけ、その窓ごしに顕微鏡観察する方法。

疲労き裂伝ぱ・停留シミュレーション

一般的に機械部品や構造物には使用前の段階からき裂とみなせるような初期欠陥が存在しており,疲労限度は初期欠陥から発生した疲労き裂の停留特性によって支配されます.疲労き裂の停留特性は,材料によって様々ですが,使用する荷重条件によっても多様となるため,き裂に負荷される荷重条件を能動的に制御することによって,疲労限度のコントロールが可能であると考えられます.そこで,数値解析や有限要素法などのシミュレーションを用いた解析的アプローチによって能動的に荷重条件を変化させ,疲労き裂の停留特性に優れた荷重条件を導出することにより,疲労限度の安定性向上をはかることを目的として研究を進めています.


加工が及ぼす影響の定量化

一般的に金属機械部品と構造物は,製造過程において塑性加工を受けている.この塑性変形,すなわち予ひずみによって材料の硬さが変化し,それに伴って疲労強度も変化することが知られている.したがって合理的な疲労設計のためには予ひずみの影響を考慮する必要がある.炭素鋼、アルミ合金、ステンレス鋼などに予ひずみを与えることの物理的意味とその定量化、そしてそれが疲労強度に及ぼす影響の定式化を行なっている。


先進軽金属の疲労強度に関する研究

機械構造物に用いられている鉄鋼については,負荷の増大に伴い金属疲労の問題が顕在化しましたが,約100年を要して解決してきました.近年ようやく鉄鋼を使いこなせるようになったと言えると思います.新しい材料である先進軽金属に関しては,鉄鋼と同じアプローチをとると,また使いこなすまでに100年かかってしまうため,迅速に評価を行ない使いこなすための研究を行なっています.

現在,環境問題やエネルギー問題,資源問題は重要なテーマとなっています.これらの問題を解決する手段として考えられる一つの方法として構造物の軽量化があります.軽量化には構造面また材料面からの方法が考えられますが,構造面のアプローチは出尽くした感があり難しいと考えられます.そこで材料面からの軽量化に注目が集まっています.現在,最も普及している材料は鉄鋼をはじめとした鉄の合金です.軽量化を行うためにはこれよりも軽い金属が必要となっています.

難燃性Mg合金

実用化されている軽合金の中でもマグネシウム合金は最も軽い金属として期待の大きい合金ですが,発火点が低いため燃えやすいという欠点を持っています.本研究で対象としている難燃性マグネシウム合金はこの欠点を克服した新材料です.この新マグネシウム合金の疲労特性等を調査し,実用化することを目的としています.

アルミニウム合金

時効硬化アルミニウム合金(2000系,6000系,7000系)と加工硬化アルミニウム合金(5000系など)における疲労メカニズムからそれらの疲労特性(疲労き裂発生の過程,疲労限の有無,切欠き敏感性)の相違を明確にすることによって,その合理的使用と材料開発の指針を与えるための研究を行っています.

最近の研究成果として, JIS 6061-T6 に対して過剰なマグネシウム合金を加えることにより, 明瞭な疲労き裂進展限界を有するアルミニウム合金の開発に成功しました.


転がり部材の強度

製鉄プロセスに用いられる圧延ロールや電車に用いられるレールの疲労損傷発生メカニズムの解明および長寿命化に関する研究を行なっています.ロールやレールでは通常の機械要素とは異なる繰返しの接触による圧縮応力を受けるため,「転がり疲労」と称される金属疲労現象が発生します.通常の引張によって発生する金属疲労現象と比べて,圧縮応力を含む複雑な応力によって発生する転がり疲労に関するメカニズムには不明な点が多々残っています.

レール材の疲労特性

現在レールに多用されているパーライト鋼の疲労強度に関する研究を行なっています.パーライト鋼はラメラ組織と称される硬い相と柔らかい相が積層した組織を有しており,また著しい加工硬化を起こすなど,通常の鉄鋼とは違う特徴を有しています.パーライト鋼がレールに適している理由に関しては不明な点が多いため,パーライト鋼がレールとして最適である理由を明確にし,材料開発の指針とすることを目的として研究を進めています.

転がり疲労したレール材の疲労特性

転がり疲労が発生したレールの詳細観察を行なうと,塑性変形した部分に損傷が発生しています.一方,疲労強度に強いレール素材の選択を行なうための試験には塑性変形前の材料が用いられています.この評価材料に関する矛盾を明確にし,最適な評価方法を提案することを目的として研究を進めています.


疲労寿命の評価/予測法確立

き裂伝ぱ速度のばらつき評価

き裂伝ぱ速度にはバラツキがあり、このため疲労寿命にもバラツキが存在します。このため、実用の設計では必ず安全率が設けられています。この安全率を低減することができれば、設計上、材料は本来の特性に近い強度レベルで安全に使用することができます。本研究では、大きな将来の目標として疲労寿命がばらつかない材料創製をめざします。まずはバラツキの影響因子を明らかとし、疲労寿命におけるバラツキ評価法の確立を目指します。

疲労寿命の試料体積依存性の予測

疲労寿命は部材の体積に依存することが知られます。このため、小型試料で評価された結果を大型部材に利用できるように疲労寿命の体積依存性を明らかにする必要がります。本研究では、統計学的手法を用いて、体積依存性の合理的予測法確立を目指います。

損傷成長機構に基づくき裂伝播挙動のひずみ振幅依存性の定量化

疲労損傷は基本的に延性的な機構で成長します。しかし、その機構は応力状態、ひずみ分布、金属組織、温度、周波数など様々な因子に依存して変化します。このため、疲労損傷成長の系統的・定量的理解は容易ではありません。本研究では、局所ひずみ測定および損傷体積率/面積率測定に基づいて、損傷成長挙動のひずみ振幅依存性の定量評価を試みます。


新型耐疲労鉄鋼材料創製/評価

Mn-C相互作用を利用した高疲労限オーステナイトステンレス鋼の創製

低炭素オーステナイト鋼には停留き裂が観察されず、一度疲労き裂が発生すると、低応力においても徐々にき裂が伝ぱすることが知られます。この疲労き裂を停留させるためには、き裂先端を硬化させるひずみ時効が重要です。オーステナイト鋼のひずみ時効において、炭素量が重要であることは自明ですが、さらにI-S相互作用(侵入型原子、置換型原子相互作用)がひずみ時効強化を促進することが近年明らかになりました。本研究では、I-S相互作用を用いて、オーステナイト鋼の疲労限強化を目指します。

FIBノッチを用いたTWIP鋼のき裂伝播特性における炭素の役割評価

TWIP鋼と呼ばれる先進高強度オーステナイト鋼における炭素の重要性を明確に評価します。上述の通り、炭素量が少ない場合、オーステナイト鋼の疲労限は疲労き裂の発生に支配されます。しかし、実用上は傷などのき裂とみなせる欠陥が既に存在するため、実用環境と実験室環境で疲労限が異なることがあります。このため、疲労の観点では、き裂の停留限界が材料を安全に使う上で重要な位置づけにあります。疲労本研究では、き裂に近い形状であるFIB(Focused Ion Beam)微小切欠きを用いて、炭素のき裂停留限界に対する影響を明らかとします。

高Mnオーステナイト鋼のき裂開口/閉口過程のその場観察

オーステナイト鋼では拡張転位すべり変形、マルテンサイト変態、双晶変形など、多様な変形様式が観察されます。疲労き裂の伝播は基本的に開口/閉口過程の繰り返しですが、上記多様な変形様式がき裂の開口/閉口にどのような影響を与えるかは明らかになっていません。本研究では、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡によるその場観察法を用いて、き裂開口/閉口挙動の変形様式依存性を明らかにします。

炭素形態を制御した鉄鋼材料の疲労特性評価

鉄鋼は多様な組織、多様な固溶元素を含むため、疲労特性にも大きな幅を持ちます。この中で、最重要元素は炭素であり、炭素の量、分布、形態は様々な機械的特性に影響することが知られます。本研究では、炭素の分布・形態に着目し、同一総炭素量において異なる炭素形態(固溶状態、セメンタイト化→粒界析出、粒内析出)を含む鉄鋼材料の疲労特性を評価します。また、その疲労特性の形態依存性の機構を明らかとします。