研究内容 RESEARCHES

生体関節の超潤滑メカニズムに関する研究
Studies on superlubricity mechanisms in biological joints
人体の中でも,肘や膝など四肢の可動関節は常に大きく滑らかに動くことで,私達に多様な運動機能を与えている.例えば下肢関節(膝関節や股関節)の場合,通常の歩行時においても体重の3倍にもなる大きな関節荷重を支えながら,関節表面で生じる摩擦を,氷の上を滑るスケートと同程度まで小さくする事で非常に滑らかな歩行を実現している.このような極低摩擦を実現する生体関節の超潤滑メカニズムについては,これまでにも数多くの研究がなされてきたが,その詳細については未だ活発な議論の対象となっている. この研究では,可動関節の表面を覆う関節軟骨組織とその表面,関節内部を満たす関節液のそれぞれが持つ潤滑機能を,様々な実験と分析により検証しながら,それらの巧みな協調による超潤滑メカニズムの詳細を探求する.



References
[1] Importance of adaptive multimode lubrication mechanism in natural synovial joints, T. Murakamia, S. Yarimitsu, N. Sakai, K. Nakashima, T. Yamaguchi, Y. Sawae, Tribology International, 113, 306-315 (2017).
[2] Development of cartilaginous tissue in chondrocyte-agarose construct cultured under traction loading, K. Fukuda, S. Omata, Y. Sawae, IFBM Proceedings, 43, 263-266 (2014).
[3] Superior lubricity in articular cartilage and artificial hydrogel cartilage, T. Murakami, S. Yarimitsu, K. Nakashima, T. Yamaguchi, Y. Sawae, N. Sakai, A. Suzuki, Proc IMechE, Part J, 228(10), 1099-1111 (2014).


高機能次世代人工関節の実現を目指した高強度樹脂材料のバイオトライボロジー研究
Biotribology of high strength polymer composite materials for next generation artificial joints
人工関節は,病気や事故により機能障害を生じた手足の関節を置換し,関節機能を再建するための医療デバイスであり,超高齢化の進む現代社会においてその需要は増え続けている.しかし,現在臨床に用いられている人工関節には,材料の摩耗による耐用年数の制限に加え,強度と関節可動域の不足による運動機能の制限といった,解決すべき大きな工学的課題が残されている.これらの課題は主に,人工関節に用いられるポリエチレンの強度,弾性率,耐摩耗性といった力学特性の不足に起因しており,その解決を目指した高強度樹脂材料の開発が進められている. この研究では,生体内における人工関節の滑り運動と,そこでの樹脂材料の摩耗メカニズムを明らかにし,それを再現する事が可能な摩耗試験法を確立する.その上で,次世代人工関節の実現を目指して開発された高強度樹脂複合材について,生体内での摩擦・摩耗挙動を予測するために必要な基礎データを取得し,その人工関節材料としての適性を評価する.



References
[1] The Influence of Proteins and Speed on Friction and Adsorption of Metal/UHMWPE Contact Pair, D. Necas, Y. Sawae, T. Fujisawa, K. Nakashima, T. Morita, T. Yamaguchi, M. Vrbka, I. Křupka, M. Hartl, , Biotribology, 11, 51-59 (2017).
[2] Improved wear resistance of functional diamond like carbon coated Ti-6Al-4V alloys in an edge loading conditions, D. Choudhury, J.M. Lackner, L. Major, T. Morita, Y. Sawae, A. Bin Mamat, I. Stavness, C.K. Roy, I. Krupka, J Mech Behave Biomed Mater, 59, 586-595 (2016).
[3] Influence of protein and lipid concentration of the test lubricant on the wear of ultra high molecular weight polyethylene, Y. Sawae, A. Yamamoto, T. Murakami, Tribology International, 41, 648–656 (2008).


生体模倣人工関節デザインのためのハイドロゲル人工軟骨に関する研究
Studies on hydrogel artificial articular cartilages for bio-inspired design
現在臨床に用いられている人工関節は,1960年代に提案されたLow Friction Arthroplastyという設計コンセプトを継承したものである.半世紀にわたるデザインや材質の改善により,現在では平均的な寿命が20年を超え,この設計コンセプトの完成形に到達しつつある.しかし,関節部にポリエチレンや金属,セラミックスといった「硬い」材質を用いるため,もとの生体関節と比較し耐衝撃性や関節可動域が不足し,手術後に運動や姿勢が制限されるといった課題が残されている. このような課題を克服し,より高機能・長寿命な次世代人工関節を実現するには,これまでとは全く違う設計コンセプトが必要かもしれない.その新しいコンセプトの一つが,生体関節の構造や機能を規範とした,生体模倣人工関節デザインである.生体関節の表面は柔らかく内部に多くの水を含んだ関節軟骨に覆われており,この関節軟骨の物理的,化学的特性が,生体関節に優れた柔軟性と滑らかな可動性を与えている.生体模倣人工関節デザインでは,この関節軟骨に類似の柔軟性と含水性,透水性を持った高分子ハイドロゲルを人工軟骨として関節表面に導入し,人工関節に生体関節と同等の柔軟性と高度な潤滑機能を与え高機能化・長寿命化することを目指している. この研究では,いろいろな高分子ハイドロゲルの力学特性と摩擦・摩耗特性を,生体内を模擬した環境において評価しながら,人工軟骨材料として必要な物理的,化学的特性を備えた材料を探索する.


References
[1] Biomimetic artificial cartilage: Fibre-reinforcement of PVA hydrogel to promote biphasic lubrication mechanism, N. Sakai, S. Yarimitsu, Y. Sawae, M. Komori, T. Murakami, Biosurface and Biotribology, 5, 13-19 (2019).
[2] Superior lubrication mechanism in poly(vinyl alcohol) hybrid gel as artificial cartilage, T. Murakami, S. Yarimitsu, N. Sakai, K. Nakashima, T. Yamaguchi, Y. Sawae, A. Suzuki, Proc. IMechE, Part J, 231, 1160-1170 (2017).
[3] Evaluation of a superior lubrication mechanism with biphasic hydrogels for artificial cartilage, T. Murakami, N. Sakai, T. Yamaguchi, S. Yarimitsu, K. Nakashima, Y. Sawae, A. Suzuki, Tribology International, 89, 19-26 (2015).


水素雰囲気におけるシール用樹脂材料の摩擦・摩耗に関する研究
Studies on friction anf wear properties of PTFE composite materials in hydrogen environment
燃料電池自動車に燃料である高圧水素ガスを供給する水素ステーションでは,高圧水素圧縮機を用いて水素ガスを100MPa(1000気圧)程度まで昇圧し,貯蔵,供給している.現在主流となっているレシプロ型水素圧縮機の場合,ガスを密封して圧縮するため,数多くの樹脂製シール部材が使用されている.これらのシール部材は圧縮ガスの高圧と高温に晒されながら高速で摩擦されるため,その材質には機械的強度とともに優れた耐熱性とトライボロジー特性(低摩擦,低摩耗)が求められている.現状では四フッ化エチレン(PTFE)に数種類の充てん材を加えたPTFE複合材が主として用いられているものの,水素ステーションの信頼性向上とメンテナンスコスト軽減のため,更なる耐摩耗性の改善が求められている. この研究では,高純度の水素ガス雰囲気において,組成の異なるPTFE複合材の摩擦・摩耗を評価しながら,水素ガス雰囲気の摩擦界面で生じる特異な物理的,化学的現象を各種表面分析を通して明らかにし,摩擦と摩耗の詳細メカニズムを解明する.その知見をもとに,複合材に含まれる各種充てん材の水素中での機能や雰囲気中の不純物の影響を論理的に説明し,高圧水素圧縮機のシール部材について,最適組成探索のための知識ベースを提供する.



References
[1] 水素雰囲気における樹脂の摩擦・摩耗,澤江義則,トライボロジスト,60, 638-644 (2015).
[2] Effect of high-pressure hydrogen exposure on wear of polytetrafluoroethylene sliding against stainless steel, K. Nakashima, A. Yamaguchi, Y. Kurono, Y. Sawae, T. Murakami, J. Sugimura, Proc. IMechE, Part J, 224, 285-292 (2010).


高機能樹脂複合材の摩擦・摩耗メカニズム
Studies on friction and wear mechanism of polymer composite materials
樹脂材料(プラスチック)は,機械システムを構成する重要な素材の一つであり,主に可動部での動きを滑らかにする軸受や流体の漏れを防ぐシールとしても広く用いられている.しかし,機械システムの機能が高度化するとともに,使用される樹脂材料に対しても,高い機械的強度,耐熱性,耐環境性,耐摩耗性など高度な機能性が求められている. この研究では,各種樹脂複合材の摩擦特性と摩耗挙動がどのような因子により決定されているかを明らかにし,様々な機械システムの可動部に適した材料組成について検討している.