真の破壊機構の解明

図1 鋳肌直下30μmまでの領域に凝集する高密度のミクロポアの発見とそれによる疲労寿命の低下:(a)。(b)は,ミクロポアがほとんどなく,倍以上の疲労寿命を呈した試料。いずれもCTによる観察で,内部ポアだけを表示

 我々の研究室では、様々な材料の破壊現象の可視化を繰り返し、これまでの定説と異なるような発見がいくつもなされている。以下には、その一例を紹介する。アルミニウム合金ダイカストの表面直下数十μmの位置に密集する高密度の水素ミクロポアが発見された(論文2)。このようなポアは、慣用の観察手法では全く看過されてきた新奇な欠陥である。図1は、これと疲労寿命の関係である。

図2 鋳肌直下30μmまでの領域に凝集する高密度のミクロポアからの疲労き裂発生のその場観察。特に,高密度で水平に並んだポアからき裂発生

  
 図2は、表面直下に位置するポア(直径10μm以下)のクラスターからの疲労き裂発生過程である(論文2)。発生直後の長さ約20μmの疲労き裂が約30μmまで成長している。また、図3に示すように、ポアの空間的な分布や形態の影響を統計的に解析し、疲労き裂を発生させやすい幾何学的条件を解明している(論文3)。金属材料の延性破壊は、現在では既に教科書レベルの常識である(解説論文2,論文1)。しかし、実用材料に関し、教科書とは全く異なる姿が明らかになっている。

図3 重回帰分析モデルによるポアクラスターからの疲労き裂発生の統計解析結果。隣接するポアペアの平均直径(パラメータa2とその鋳肌までの距離の平均(パラメータa4)が疲労き裂発生を支配。

図4 2024アルミニウム合金の延性破壊過程の4D可視化。内在ポアが成長して破壊を主として担っている。

 図4では、製造プロセスで生成された高密度の内在水素ポアが外部負荷下で早期に成長・合体し、延性破壊を誘発することがわかる。従来の破壊機構は、これらを補うように二次的に機能している。

図5 2024アルミニウム合金の延性破壊後の破断面座標を時間を遡り追跡した結果(左)。これに基づき,破面上の水素ポアに起因するディンプルパターンを特定したもの(右:黄色部分)

  図5では、破面座標を50万点特定し、これを分散粒子の変位を元に時間を遡って追跡することで、負荷前のどの位置に破面が位置するかを解析した。これに基づき、破面上のディンプルを、水素ポアに起因するものと従来の破壊機構によるものとに分類できる。水素ポアに起因する領域は破面に対する面積率で39%を占める。ただし、内在ポアからの損傷が先行するので、面積率で示す数字以上に内在ポアが延性破壊を支配している。これまでの構造用金属材料の材質制御は、従来の知見に基づき、分散粒子の種類、サイズ、分布などを制御するものであった。しかし、上記の結果は、水素固溶量、ポアの数、サイズや空間的な分布といったこれまで意識されなかった因子が破壊を支配している可能性を示唆する。例えば、従来の組織制御指針では、分散粒子の削減や微細化が有効とされた。しかし、これはポアの粗大化という全く逆の効果をもたらす。得られた知見は、従来の常識と正反対の材質制御手法の有効性を示唆する点で興味深い。

関連解説論文

  1. 戸田裕之,小林正和,鈴木芳生,竹内晃久,上杉健太朗, 3D・4Dマテリアルサイエンス:その現状と展望,非破壊検査,Vol.58,No.10,2009,433-438
  2. 共著(全29名),「最新フラクトグラフィー 各種材料の破面解析とその事例」,第2章1節「アルミニウム合金のフラクトグラフィー」,2010,187-199
  3. 戸田裕之,佐藤眞直,奥田浩司,小林正和,放射光を用いた材料の観察と解析,軽金属,Vol.61, No.1, 2011

投稿論文

  1. A. Weck, D.S. Wilkinson, E. Maire and H. Toda, Visualization by X-ray tomography of void growth and coalescence leading to fracture in model materials, Acta Materialia, Vol.56, Issue 12, 2008, 2919-2928
  2. 増田翔太郎,戸田裕之,青山俊三,折井晋,植田将志,小林正和,熱処理したアルミニウム合金ダイカストで新たに見つかった鋳肌欠陥とその疲労特性への影響,鋳造工学,Vol.81,No.10,2009,475-481(日本鋳造工学会論文賞受賞)
  3. H. Toda, S. Masuda, R. Batres, M Kobayashi, S. Aoyama, M. Onodera, R. Furusawa, K. Uesugi, A. Takeuchi, Y. Suzuki, Statistical assessment of fatigue crack initiation from sub-surface hydrogen micropores in high-quality die-cast aluminum, Acta Materialia, Vol. 59, No.12, 4990-4998, 2011
  4. H. Toda, H. Oogo, K. Horikawa, K. Uesugi, Y. Suzuki, Y. Aoki, M. Nakazawa and M. Kobayashi, The true origin of fractures in structural metals, Acta Materialia, to be submitted.